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2016.11.03 Thursday 20:18
蒲公英草紙―常野物語 / 恩田陸
この物語の主演は、聡子様だ。語り手は、峰子。 聡明で美しく、ときに不思議と示唆的な言葉を放つ、聡子様。 病弱で二十歳まではもたないだろうと医師に診断された聡子様。お屋敷の中の部屋から出ることができないほど弱っているときもあるものの、体調が良いときにはお屋敷の外へ出て、集落の子供たち相手に話を聞かせてやるまでになった。 峰子の回想録という形式で進められるのだから、語り手イコール主人公であることは確かだ。聡子の兄・廣隆との淡い恋のようなものも描かれているけれど、年老いた終戦記念日の峰子を今もなお照らしているのは聡子の存在を基盤とした人々とのエピソードなのだ。 特殊な能力を持つ春田一家の活躍は、必要最低限だけど、しみじみと効いてくる。春田家の息子・光比古が聡子様を『しまって』いて、それを人々に響かせるシーンは切ない。
しかし、すべては過去の出来事である。長生きしていろんなものを見聞きし、経験した峰子の「現在」まで歩んできた道が蒲公英草紙のみを残してかき消されてしまうのは、やりきれない。しかし、そうやって様々な背景と出来事は記憶されることも、記録されることは稀である。確かにあったことが、影も形もなくなることは、残酷なようでいて当たり前のことである。だからこそ、膨大な過去の人々の営みを描いたほんの僅かな例外がもてはやされる。一部が全部の代表になってしまって、それ以外は完全に忘れ去られてしまう。 フィクションとはいえ、本書は留めておきたかった過去の市井の人々の生活があった。そういう事実を辛うじて峰子の存在が証明している。槙村家や集落の人々がかつて存在していたことを、峰子は誰かに話しているだろうか。家族を戦争で亡くし、残された子供と孫に語り継ぐだろうか。蒲公英草紙を手に取る新しい時代の人はいるのだろうか。 現実でも、日記などが残されている旧家の明主や農家の人の生活が伝え残されている場合がある。けれど、そういった文化がやってくる前に生きた人々の思いや日常はもはや、窺い知ることができない遠いものとなってしまった。 無常の切なさを描いた話といえば、梨木香歩の『海うそ』を思い出した。やるせない時代の流れを感じる点は共通する。
常野一族もこんなやりきれない思いを抱いたりしているのだろうか。 |
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