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松本隆/風街図鑑~風編~ (JUGEMレビュー »)
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2019.08.09 Friday 21:27
猫を抱いて象と泳ぐ / 小川洋子
猫を抱いて象と泳ぐ 小川洋子 文春文庫 2011年7月
どんな展開をする話なのか、読み終える直前まで予想することができなかった。美しく、諦めに似た静かなリトル・アリョーヒンの心の襞が、決して多くはない人々との濃密な関係に彩られていく様は圧巻だった。 祖父、祖母、弟、彼に丁寧にチェスを教えてくれた丸々と太ったマスター、デパートの屋上に閉じ込められた象のインディラ、壁の隙間に挟まれた少女ミイラ、マスターの飼い猫で対局するときに常に抱いていたポーン、ミイラに生き写しの肩に鳩を乗せた少女「ミイラ」──。 リトル・アリョーヒンの生まれたときに唇の上下が癒着していたこと、それを手術で切開した際に脛の一部を移植したため、彼の唇は幼いころは産毛、長じてからは濃い脛毛を生やすこととなる。それは彼が平凡な普通の子供とかけ離れた運命を背負っていることを示唆している。
回送バス、海底チェス倶楽部、老人専用マンション・エチュード、彼がチェスを覚え、人形の中に隠れながら、決して表に出ることなく、盤面の裏に体を畳んで、チェスの駒と盤面が表す世界に無限の可能性と奥深さを体感していく様はとても美しい。奇跡のような棋譜を生み出すのは、彼の魂がどこまでも素直にマスターの教えに忠実だったからで、それゆえ、十一歳の身体のままその名の通りリトル・アリョーヒンとして成長を止めることになったのだろう。 地下クラブでタッグを組んだ「ミイラ」との淡い恋のようなものが控えめなきらめきを放っている。
耽美とは違うのだが、普通なら美しくないものを描く筆致がとても綺麗なのだ。仄かに退廃的な言葉遣い──といってもけっしてひねくれてはいない──がまっすぐなリトル・アリョーヒンを魅力的に描き出している。
これ、映像化は難しいですよね? リトル・アリョーヒンのフリーキーな感じとか、実際のチェスのシーンで間延びしてしまわないかとか、表題にもなっている象と猫は漫画化ならギリいけそうな気もするけど、やっぱり映画は難しいか。オーディオドラマならなんとかなるかも。『博士の愛した数式』は映画版しか見てなくて、あんまり心に迫るものがなくて残念で、いつか原作を読んでみようと思っている。多分映像化する際に端折らざるを得なかった部分が物語の肝だったんじゃないかと推察する。映画もそれなりに評価されてたはずだけど、なんかいまいちだったんだよな。 リトル・アリョーヒンの空想を描くのは難易度が高い。 2008.10.19 Sunday 17:25
おとぎ話の忘れ物 / 小川洋子 樋上公実子
不思議な魅力を持つイラストと、残酷さを秘めたどこかはかなげな物語が合わさって、素敵なハーモニーをつくりだしている。 「忘れ物図書室」のなかに所蔵された物語のうち4編がこの本に所収されている。 どれも一筋縄ではいかない危うさに満ちていて、とても面白い。ショートショートとまではいかないものの、ほんとうに短いお話ばかりなので、すぐに丸一冊読み終えてしまう。 どのお話が一番好きか、と言われると選べないのだけれど、目がくらむような感覚をおぼえる一冊でした。 2006.06.01 Thursday 21:12
寡黙な死骸 みだらな弔い / 小川洋子
ひんやりとした感触と、透きとおった瑞々しさをおぼえる文章が描き出すのは、そのタイトルにあるように「死」と「弔い」。 棄てられた冷蔵庫の中で窒息死した子ども。幼き日にひとときだけ母親だった女。不倫相手にナイフでのどを切り裂かれた呼吸器内科医。鞄職人に胸をえぐられた歌手。老人の傍らで息絶えるベンガル虎。 それぞれの短編の絡まりあっているのだけれど、濃密な自意識の奔流によってある意味で隔絶された人々の孤独をかえって強調しているようにみえた。 人間の危うさ、陰の部分の惨めなまでのうつくしさを垣間見させてくれる、素敵な一冊だった。 2006.03.21 Tuesday 21:22
偶然の祝福 / 小川洋子
不思議な透明感に貫かれた物語たちの佇まいに、思わぬところで心が惹かれてしまった。川上弘美は解説において、小川洋子の作品を「失われたものたちの世界」と呼ぶのだが、まさに、過ぎ去っていった、今はもうここにいないもの、それらの記憶の感触を追い求めたかのような文章が連ねられている。 「失踪者たちの王国」 理由もなく、前触れもなく、日常生活から抜け出ていった人々へと馳せられた思いと寂寥感が浸透してくるよう。 「盗作」 この筆致でなければ成立しないであろう、絶妙な均衡が保たれた一編。 「キリコさんの失敗」 代償を支払うことでしか得られぬもの、かけがえのない宝物をふと思い出させてくれた。 「エーデルワイス」 個人的にはこの本でいちばん好き。妄執にとりつかれた男は滑稽でありながら、どこか聖性をも湛えている。 「涙腺水晶結石症」 本当に必要なものは、適切なタイミングで適切な人のもとへと巡ってくる。偶然とも、必然とも、奇跡とも呼ばれるけれど、そのことは皆が知っている。 「時計工場」 現実であって、現実でないような。 「蘇生」 乱された私のなかの秩序が回復する・・・そのとき、その私にとってよすがとなる言葉は、振り返れば他愛のない、無意味にも等しい記号に過ぎない。しかし、それなしに今の私は存在し得ない、この世に身体と精神をつなぎとめる決定的な楔であった。 |
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